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生ける伝説・内村航平




【全日本体操種目別選手権 男子の見どころ】場内解説:中野大輔さん-1

■流行技が変わる

ルールが変わり、流行り技というのが結構変わってきているような気がします。例えば平行棒だったら、棒下系の技から単棒で静止する技へと変わってきています。ゆかではひねりが凄く多くなっていて、2回宙返り系の技より、ひねり系の技を繋げてきたり、ひと昔前より全体的にひねりが1回多い感じで、果たしてこの1演技で何回ひねっているんだろう?と思うぐらいの演技が増えていますね。

ひねりは基本的に連続技になっているので、ゆかにしっかり「合わせる」と言うんですけれど、まず合わせる能力が必要です。ひねりの技術というのは凄く奥が深いのですが、ひと昔前と比べて技術が変わってきています。

それはゆかのマットのタンブリング自体が変わって、前はスポンジだったんですけれど今はコイルになっていて、バネがトランポリンに近づいた感じです。ですので多少ずれていても蹴ることができたりして、その辺でまた違う技術が生まれてきています。それが前方の2回半ひねりなどの技まで繋がっているのかなと思います。

ゆかに合わせるというのは、足の裏の重心がしっかりゆかに乗る、芯を食う、ということです。バネの芯を食った時は、凄く跳ね返って高さに繋がってきます。その辺が今の選手たちは上手で、そのゆかに合わせられる技術が、ひねり系の技まで繋がっているのかなと思います。


■見せる体操

僕が好きな選手は、倒立の姿勢が綺麗で、足の先から手の先まで神経の行き届いた動き、そして演技全体の中のリズム感を持った、美しさ、そして見せる体操をする選手です。見ていて「おっ!おっ!」と思うような演技で、「上手い!」って言えるような演技が玄人好みの演技だと思いますが、今のルールに対応して高難度の技を10個演技に組み込まないといけないという中で、1つ1つの技に対しての選手たちのこだわりは、そこまで感じられません。

鉄棒のコバチひとつとっても、僕らの時は演技も短かったので、いかに高く、そして余裕を持ったものを見せられるか、そして一番良い位置でバーを持てるか、ということを考えていました。全体を見ているとそういう選手もいますけれど、減点されない高さ、減点されない位置で持つ、コバチで持つ時の開きも減点されないぐらいの開き、という演技が多く見受けられます。

そして倒立の姿勢も、つま先まで意識しているのだろうかという選手も多く、今のルールに変わって、むかしが陸上の短距離だとしたら、いまは中距離ぐらいの体力の使い方、しんどさがあるからだと思います。そういう中でそこまでやるというのは難しいとは思うんですけれど、芸術性が欠けている選手が多いかなということを少し感じています。

田中佑典選手や、野々村弟(晃司)の演技が僕は好きですし、亀山(耕平)選手のあん馬も線が綺麗で、本当に個人的な意見ですけれど好きですね。内村選手に関しては、六角形のグラフで描いたら穴がないというか、正六角形を超えているぐらいのレベルで、どうしてその技を入れてこんな着地ができるんだ?とか、この演技の内容をこんなに完璧にできるのか、という感じですよね。


■何かの改革

内村選手の凄さは、6種目に穴がないというところ。そして穴がないというより、6種目すべて皆より上に行っているというイメージがあります。その演技内容をミスなくやってくるところ、そして難しい技を入れても着地まで決めようとして決めてくるところですね。何なんでしょうか。なぜできるかわかったら、僕も昔もっと行けていたかもしれないですね(笑)。

僕がアテネオリンピックへ出たちょっと後に、「あ、この選手来るな」と思いました。当時、内村選手は高校生だったんですけれど、この選手はたぶん北京オリンピックの代表選考の時に、一番危ない存在になるな、というイメージがありました。そこにまだ冨田選手とか、米田選手、塚原選手など、僕らと出ていた選手はみんな出ていたんですけれど、その時にあと誰が食い込んでくるかなと考えると、最初に「内村航平選手がこのままの勢いで来たら危ないな」と思ったのを思い出します。

当時の彼は質は凄かったけれどミスもあったりで、まだ正六角形じゃなかったんですけれど、北京が終わってから鉄人になりましたよね。その中で彼自身いろいろな部分で努力して、自分の穴を埋めてきたんだと思います。当時はあん馬が苦手なんじゃないか、つり輪もそこまで得意じゃないのかな、というイメージもあったんですけれど、あん馬なんていま、むしろ点数を取ってますし、つり輪も力が強くなって減点のない演技をしてきますから、何かの改革があったんでしょうね。



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■生きる伝説

表に出てこない良い選手って結構たくさんいるんですよ。その中で内村選手が試合で勝てる選手になったということは、体操競技として何か改革を起こしたんじゃないですかね。僕も結構技がたくさんできるタイプで、アテネの時はしっかり合わせられたんですけれど、天才的な動きをしてもなかなか形にならないという選手は多いです。

だから加藤凌平選手とか野々村笙吾選手みたいな、堅実な、ぜんぶオールラウンドでやってくるという選手の方が、強くなってきたりするんですよね。天才型が上に来るというのは、なかなかないんじゃないかという気がします。

これを6種目ぜんぶに失敗しないでやったら絶対に代表に入るのに、という選手は結構いるんですけれど、そういう選手は意外と出てこないんです。内村選手に関してはそれをやりつつ、もっと上に行っているということです。凄いですよね。体操の歴史の中で一番に来るぐらいの存在なんじゃないですか。“生きる伝説”ですよね。


体操協会FBより




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【全日本体操種目別選手権 男子の見どころ】場内解説:中野大輔さん-2

■うぉー!となる演技

体操の魅力は、単純に「人がこんなことできるんだ」と思わせられるところにあると思います。ふつうの人が絶対できないだろうというレベルのことをやり遂げようとすることは、選手としてはずっと追い続けてほしいことです。

ただパワーがあったら勝てる訳でもないし、体力があったら勝てる訳でもなくて、全種目に精通していなくてはなりません。そして微妙なズレがあって、毎日毎日違う体でいながら、いかに体を合わせてミスをしない演技をするかという面白さが、選手にはありますよね。毎日、体は違うし、大会の1日目と2日目でも絶対に違うので、その中でどれだけ自分で調節できて、いかに自分の体をわかってやっているか、選手の時はそういう面白さを感じながらやっていました。

やっぱり気持ち良いですよね、新しい技ができた時など、演技していて自分の思い通りに自分の体と心が調和した時というのは、やはり凄くやり切れた感があります。そこにまた勝利が結びついてくると、凄く気持ちが良い訳です。僕は単純に、回っていたりとか、空中にいる感覚が好きでした。

見る側としては、内村選手の鉄棒とか、植松選手(写真)の鉄棒とか、見ていて会場が「うぉーうぉー!」となるような演技をいっぱい見たいですよね。「あ、こんな技あるんだ」とか「あ、マニアックな技をしてきたな」とか、そういう部分を見たいですね。


■小技が効いてオシャレ

いつも代表に入って来るメンバーでいうと、僕は田中佑典選手(前回写真)を押します。好きなんですよねぇ、凄く。倒立の姿勢ひとつとってもそうですし、流れがある体操と言いますか、何か玄人の心をつかむ体操をしているんですよね。ちょいちょい小技が効いていて、オシャレですよね。オシャレっていう言葉が合ってますね。

自分たちの時代で玄人受けした選手は、冨田選手です。オシャレではなかったですし、オシャレ度は僕の方があったと思いますけれど(笑)。僕も各種目に1個、みんなが絶対やっていない技を入れるというのが、僕のテンションの上げ方だったんですよ。人と違うことをやって「うぉーっ!」と言われて、テンションを上げるようにしていたんです。でも玄人受けとしては100%冨田選手ですし、僕も憧れていました。

冨田選手は、静と動の使い分けとか、演技全体の流れるような、でも止める場所はしっかりピッと止めてという、僕の大好きなリズム感とか流れを持っていました。その部分で勝てる選手はいないと思います。冨田選手の体操というのは、みんな好きなんじゃないですかね。嫌いな人はいないと思います。


■1種目に懸けた高難度の技

全日本種目別選手権は、種目で勝とうとしてくるので、たぶんみんな技を盛り込んでくると思います。それであわよくばポイントを取ろうと思っているだろうし、種目別の場合は6種目やらずに自分の出る種目だけ演技することなりますので、たぶんかなり1種目に対しての気合いの入れ方、技の入れ方が変わってくると思います。

だから個人総合の試合では見られない1種目に懸けた高難度の技に、みんな仕上げてくると思います。その辺が楽しみです。たぶんいろんな技を組み込んできて、つり輪だったらもうひとつ力技を増やしたり、難度を上げたりとか、ゆかでももう半分ひねることができるからもう半分ひねろうとか、もう1コース入れようというのもあるでしょう。

やっぱりみんな点数を上げるために、1種目に懸けて極限のことをやってくると思います。6種目やるというのと、1種目に懸けるというのとは、ぜんぜん違います。そこが大きな見どころだと思います。





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 第67回全日本体操競技種目別選手権大会 概要

by sr-moko | 2013-06-28 17:47 | 内村航平or体操競技